小児慢性疲労症候群患児の脳活動状態を明らかに
この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
<(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆10/15 サンテレビ「NEWSPORT」
◆10/16 産経新聞、毎日新聞
◆10/19 日本経済新聞、HazardLab※、
医療NEWS QLifepro※
◆16/1/24 日本経済新聞
その他、地方紙等掲載
医学研究科システム神経科学?渡辺恭良 特任教授、疲労医学講座 水野 敬?特任講師および理化学研究所、熊本大学、兵庫教育大学、生理学研究所との共同研究グループは、小児慢性疲労症候群(CCFS:Childhood Chronic Fatigue Syndrome) [1]の患児の脳では、注意配分(2つ以上のことを同時に遂行すること)を行う際に前頭葉が過剰に活性化し、非効率な脳活動状態となっていることを機能的磁気共鳴画像法(fMRI)[2]を使って明らかにしました。
CCFSは3ヶ月以上持続する疲労?倦怠感および睡眠?覚醒リズム障害を伴う病気であり、不登校の児童?生徒の多くが発症しています。CCFSによる記憶や注意力の低下は学校生活への適応を妨げている可能性があることから、子どもの疲労と脳機能の関係の解明が期待されています。共同研究グループはこれまで小?中学生を対象に、平仮名で書かれた物語を読ませ、母音の拾い上げと物語の内容理解の同時処理を要求する仮名拾いテスト[3]と呼ばれる注意配分課題(二重課題)を実施し、同時に行った疲労度調査との関連について検討を行ってきました。その結果、CCFS患児の成績は健常児より低く、また健常児でも疲労を強く感じている状態では成績が低くなることを明らかにしました。しかし、注意配分機能が低下している脳内で何がおきているのかは分かっていませんでした。
共同研究グループは、CCFS患児15名と健常児13名を対象に、二重課題および一重課題(母音拾い上げ、または内容理解のどちらか一方)遂行中の脳活動状態をfMRIで測定しました。その結果、CCFS患児と健常児、いずれも、二重課題遂行中は一重課題遂行中に比べて前頭葉の一部である脳の左側の下前頭回背側部と頭頂葉の一部である左側の上頭頂小葉が活性化していました。つまり、これら2つの脳部位が、二重課題の遂行に必要な脳領域であることが示されました。次に疲労と脳の活性化の関係を調べたところ、疲労している健常児は、二重課題遂行中に左下前頭回背側部をより強く活性化させていることが分かりました。一方、CCFS患児と健常児を比較すると、CCFS患児では一重課題と二重課題いずれの時も右中前頭回が特異的に活性化し、活性度は物語の内容理解度と正の相関関係にあることが分かりました。さらに二重課題においては右中前頭回に加え、前帯状回背側部と左中前頭回も特異的に活性化することも分かりました。このことから、CCFS患児は過剰に神経を活動させて脳の情報処理を行っているために、さらに疲労が増強していることが懸念されます。前頭葉の過活動の抑制がCCFSの症状の緩和につながる可能性など、CCFSの病態の解明や治療法の開発への貢献が期待できます。
本研究成果はオランダのオンライン科学雑誌『Neuroimage: Clinical』(9月10日付け)に掲載されました。
※共同研究グループ
◆水果老虎机_水果机游戏-中彩网官网推荐大学院医学研究科
システム神経科学 特任教授 渡辺 恭良(わたなべ やすよし)
(理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター
生命機能動的イメージング部門 イメージング応用研究グループ
健康?病態科学研究チーム チームリーダー)
(ライフサイエンス技術基盤研究センター センター長)
疲労医学講座 特任講師 水野 敬(みずの けい)
(理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター
生命機能動的イメージング部門 イメージング応用研究グループ
健康?病態科学研究チーム 上級研究員)
システム神経科学 講師 田中 雅彰(たなか まさあき)
(理研 健康?病態科学研究チーム 客員研究員)
◆熊本大学大学院生命科学研究部
小児発達学分野 名誉教授 三池 輝久(みいけ てるひさ)
(兵庫県立リハビリテーション中央病院
子どもの睡眠と発達医療センター 特命参与)
小児科学分野 助教 上土井 貴子(じょうどい たかこ)
◆兵庫教育大学 大学院学校教育研究科
教授 松村 京子(まつむら きょうこ)
◆生理学研究所 心理生理学研究部門
教授 定藤 規弘(さだとう のりひろ)
?
詳しくはプレスリリースをご覧ください。
補足説明
[1] 小児慢性疲労症候群(CCFS:Childhood Chronic Fatigue Syndrome)
有病率は0.2~2.3%といわれ、不登校の児童?生徒に多く存在し、3ヶ月以上の持続する疲労?倦怠感および睡眠?覚醒リズム障害などの症状を特徴とする。
[2] 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)
MRI(磁気共鳴画像法)の一種で、脳内の酸素濃度に依存して変化する信号(BOLD信号)を捉え画像化することで、脳血流や脳神経活動の変化を同定する手法。1990年代初頭に日本の小川誠二博士がBOLD信号変化の現象を発見して以来、非侵襲的にヒトの脳機能を解明するツールとして利用が拡大した。
[3] 仮名拾いテスト
ひら仮名で書かれたテキストから、一定時間内に母音のみを抽出する作業を行うテスト。早期認知症のスクリーニングとして開発されたが、近年では前頭葉の機能や注意機能の検査としても広く用いられる。